翻訳二編

 通勤途中にワイルド『アーサー卿の犯罪』(中公文庫)をよむ。これが福田恒存の翻訳の上手さも手伝って、おもしろいのなんのって。
 ワイルドは、学部生時代に読んだ『ドリアングレイの肖像』や『サロメ』の薄ーい印象しかなく、最近はボードレールと同じく専ら“批評家”としての付き合いしかなかったのだが、実は、物凄いストーリー・テーラーだったんですね。短編集ということもあるのだろうが、少しの毒の効いたブラックユーモアも味わい深い。正しく、久しぶりに“小説を楽しむ”といった感じを満喫する。
 
 それに比べて、最近再チャレンジしているラディゲの『ドルジェ伯の舞踏会』の生島遼一の翻訳はどうなのかね。まず単調だから、リズムに乗って読み飛ばせない。故に多用な人物の情報の全てを頭で追ってしまって、疲れてしまう。で、楽しむ余裕もなくなってしまうてな感じ。また挫折しそう・・・・。 
 もちろん、前作の『肉体の悪魔』は面白かったし、フランス心理主義小説の傑作と名高い、あの三島由紀夫が最も愛した小説なのだから、ラディゲ自体がつまらないということはないのだろうけど・・・・今度、三島が嵌ったという堀口大学訳で読んでみようかな。確か、講談社文芸文庫でも出ていた気がする。