〈狐〉の愉楽

daily-komagome2007-09-20

 区役所に書類を取りに行くついでに、池袋の往来座まで足を延ばす。絶対500円以上は使わないと固く心に決めて書棚を歩き回ると、ありました、一冊400円で!別に稀覯書ではないけど、「欲しいなぁ・・・でも、新刊じゃなぁ・・・」と思っていた一冊。

 本名で出版しているのは、既に去年に亡くなっているからなのだろうか。持っている限りだと山村修という署名のあるのはこれで二冊目。が、もちろんこの山村修は『狐の書評』(本の雑誌社)、『水曜日は狐の書評』(ちくま文庫)で、長い間「謎の人物」だった、あの〈狐〉さんである。
 日刊ゲンダイの書評に関して言えば、博覧強記でありながら味わい深く、綿密なのに断言が効いていてと、常々、最高にバランスの取れた読み手だと感心させられてきた。しかも、たった800字の中にその本の来歴と魅力とを余すところなく、しかも余裕の筆致で書けるというのは驚きだ。でもって、今作は、余命幾許もない〈狐〉さんが、長年勤めた図書館を辞めて筆一本で立って書いた『文学界』の書評をまとめたもの。800字よりはやや長いが、やはり〈狐〉節は健在だ。文学・本の世界を単なる技術(=理知)にも、単なる感傷(=情感)にも落とさない筆の落ち着きは信用できる。
 坪内祐三の書評も好きだけど、あのゴシップと本との思い出話に流れるスタイルよりは、どっちかというと、全てをその本の読み方に身を傾ける〈狐〉さんの方が性には合っているのかもな・・・・。

 で、帰路、光芳堂書店で100円で拾いもの。

  • 西尾実国語教育全集 第十巻』(教育出版)

 これ、実は西尾実とは福田恒存の中学生時代の先生。しかもその後も就職のお世話になったり、戦中に家を焼け出された福田が身を寄させてもたらったりと、関係の深い人なのです。特に、この『十巻』は副題に「国語教師の歩み」とあり、西尾の回想録になっている。後日じっくりと、福田恒存の文字を探すことにしよう(実は、もう一カ所発見してるけど)。

 夕方は仕事へ。いよいよ、居残り勉強の時期が到来です。11時まで面倒を見なきゃ行けない・・・・。一生懸命な生徒の顔を見るのも、それを手伝うのも嫌いじゃないけど、まぁ、時間は取られますわね。